「なぜ新規事業は成功しないのか」(大江建著)のメソッドを使って新規事業のコンサルティングをしています。

ASEAN諸国のインキュベーションセンター関係者が調査のために訪日

2012年12月21日

■大学、民間、公的それぞれの施設を見学
 2012年10月24日から3日間、インドネシア・マレーシアの中小企業庁、タイやインドネシアのインキュベーションセンターの責任者など12人が来日されました。今回の来日の目的は、ASEANで本格的なインキュベーションセンターを設立するにあたり、日本での事例をリサーチすることです。このため、大学、民間、行政機関それぞれのセクターが運営するインキュベーションセンターを視察するとともに、入居企業にヒアリング調査をしました。
 私は、東京大学産学連携本部の各務茂夫教授と連携して、次のような施設へこの調査団をご案内しました。大学関連施設としては東大関連ならびに早稲田大学のインキュベーションセンター、民間のものとしては寺田倉庫が支援しているサムライ・スタートアップ・アイランド(東京都品川区)、サイバーエージェントによるインキュベーションオフィス・Startup Base Camp(東京都港区)、行政関連としては千代田区の支援でちよだプラットフォームスクウェアの各施設です。
 
■早稲田大学における“Entrepreneurship-Eco-System”
 そもそも私にこのような案内役が回ってきたのは、2006年から2010年の約4年間、早稲田大学インキュベーションセンター長を務めていたためです。ここで実際にインキュベーションセンターの運営に携わってきたわけですが、他の施設については知見が乏しかったというのが正直なところです。今回、このような機会を得て、いくつかの施設の運営形態や状況を知ることができました。今までのインキュベーション運営の経験を整理するうえで非常に役に立ったと考えています。
 そこで、今回の結果をご報告する前に、私が携わってきた早稲田大学のインキュベーションセンターについてご説明しましょう。
 早稲田大学のインキュベーションセンターが対象とするのは、教授や各研究室発の技術をベースにしたベンチャーと、学生のベンチャーが対象でした。「起業家教育」、「ベンチャー研究」、「ベンチャー支援」の3つの要素をベースに、早稲田大学“Entrepreneurship-Eco-System”を構築しました。
 このシステムから誕生したのが、今では東証第1部上場企業となった株式会社リブセンスです。社長の村上太一氏は、早稲田大学一年生のときに大和証券の寄付講座ベンチャー基礎論を受講し、そこで発表したビジネスアイデアで最優秀の事業アイデア賞を獲得しました。そのときの副賞が学内インキュベーションセンターの1年間無料利用権であり、これを機に彼は会社を設立したのです。当インキュベーションセンターは、村上氏が卒業するまで支援を行いました。そして、卒業2年目にはJASDAQに25歳の最年少社長として上場を果たし、2012年10月には東証1部にやはり史上最年少で上場したのです。私の実感では、Entrepreneurship Eco-systemがうまく運営できれば、1年で1社ぐらいは学生ベンチャーを上場させる可能性があると思っていましたが、それを実現したということになります。
 
■インキュベーションセンターの運営モデルとASEAN調査団への提言
 このような私の経験と今回の調査の成果から考察すると、インキュベーションセンターの運営モデルは表1のように類型できると考えます。
 不動産モデルを例に説明すると、国や地方自治体では、所有施設に安価に入居させるといった支援を行います。しかし、このような支援にしても、賃貸収入が安定していないとセンターの経営も安定しないということになります。
また、モデルにより育成・支援のレベルもまちまちで、それについては表2にまとめました。
 
 表1:インキュベーションセンターの運営モデル
 

   モデル名 育成・支援
レベル
投資 施設の存続条件 施設例
不動産モデル 最小限 なし 安定的賃貸収入 ちよだプラットフォームスクウェア
ベンチャーキャピタルモデル 最大限 シード段階 上場・売却 サムライ・スタートアップ・アイランド
企業VCモデル
※1
最小限 シード段階 技術や買収 Startup Base Camp:サイバーエージぇント
知的財産モデル 基礎的 なし 技術移転 東京大学
起業家育成モデル 最大限 助言・紹介 Entrepreneurship Eco System 早稲田大学
社内インキュベーションモデル※2 最大限 社内・社外の紹介 社内事業化や売却 富士通

※1:企業がVCファンドを設けて、ベンチャーに投資をする。技術的に興味のあるものであれば購入も考えるが、基本的には投資である。投資案件を集めるうえでインキュベーションセンターを開業する。
※2:社内の事業化案件を社内インキュベーションセンターに入居させて事業化推進を支援する。


表2:育成支援レベル

育成・支援レベル 運営者の提供内容
最小限 個室貸し出し、インターネット環境整備、会議室、専門家の紹介
基礎的 個室貸し出し、インターネット環境整備、会議室、月例セミナー開催、専門家の紹介
最大限 個室貸し出し、インターネット環境整備、会議室、週次セミナー開催、専門家の紹介、ビジネスプランコンテスト開催、定期的進捗会議や相談、担当コンサルタントの指導、など

 
 
■ASEAN調査団への提言
 このような調査を経て、最終的に私が、ASEANの調査団に提言したのは次の3点です。
 まず、一つ目は、Entrepreneurship-Eco-System を大学に取り込んで、起業家育成モデルでインキュベーションを運営することです。二つ目は、Born ASEANベンチャーの起業支援するために、ASEAN全体をカバーするベンチャーキャピタルを確立することです。さらに三番目としては、日本企業のASEAN進出を支援するような活動も兼ねるインキュベーションセンターを整備することです。 
 このような活動がASEANと日本の紐帯の強化につながると期待しています。
 
インキュベーションセンターの運営やASEANでの展開に興味のある企業の方はこちらまでお問い合わせください。
(担当:石黒)