「なぜ新規事業は成功しないのか」(大江建著)のメソッドを使って新規事業のコンサルティングをしています。

「ビジネスプラン」から「ビジネスモデル」へ

2013年05月15日

「ビジネスプラン」から「ビジネスモデル」へ

■「ビジネスモデルコンテスト」
 2013年5月上旬、2日間にわたって開催されたハーバード大学イノベーションラボで開催された2013 International Business Model Competition (以下、IBMC)に参加してきました。3回目を迎える今回は世界10カ国から1,383チームが応募しており、そのなかから書類選考を経た28チームの大学生・大学院生が当日発表の機会を得ました。
  IBMCの特長は、従来のビジネスプランコンテストを大きく見直している点にあります。ビジネスプランコンテストでは、インターネットや白書などの2次データを元に策定された事業計画書やそれに付随する財務諸表、組織体制図のできばえの良し悪しを評価してきました。この結果、形式的な事業計画書を書くことが目的化し、戦略の本質的な議論や実現可能性、実効性がほとんどなされていなかったといえるでしょう。事実、ビジネスプランコンテストで優勝案件が、起業に結びついた例が限定的であるということが、その有効性を疑問視する根拠となっています。
 IBMCは、ビジネスモデルコンテストの有効性の反省に基づき、スタンフォード大学のSteve Blank教授、BYU大学のNathan Furr教授の提唱により開始されたものです。コンテストの審査基準は次のようなものです。
①     起業にあたってのビジネスモデルが設定されており、それに伴う仮説が明確である
②     実際に仮説が検証されている
③     検証結果がビジネスモデルにフィードバックされ、修正されている
 つまり、IBMCの評価対象は、仮説をたてて「検証」し、それを元に修正を加えるという『プロセス』にあり、極めて『動的』なものです。この検証プロセスを通じて起業の実現性を高めると同時に、金銭的にも社会的にもインパクトのある事業を発想したことが、このコンテストで評価されるのです。
 実は、ハーバード大学のビジネスプランコンテストでの今年の優勝チームも、同じ内容でIBMCに参加していたのですが、IBMCでは入賞の8位までにも入ることができませんでした。いくら事業計画が優れていても、仮説が検証されていない“静的”な計画書では、起業することはできても、成功する可能性が低いと判断されたことが、このような評価につながったのです。こうした点に、「優れた計画書の作成」を目的とせず、「活用され、修正される計画書」を手段とし「成功する起業活動を創出する」というIBMCの意向が現れているのです。

■ビジネスモデルキャンバスと仮説の設定 
 IBMCで新事業の仮説を明確化するツールとして活用されていたのが、ビジネスモデルキャンバス(Osterwalder & Pigneur, 2010)です。ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを次の9つの要素に分けて考える方法です。9つの要素とは、①顧客セグメント、②顧客価値、③チャンネル、④顧客関係、⑤経営資源、⑥主要業務、⑦提携関係、⑧収益のながれ、⑨コスト構造、です。
 ビジネスモデルキャンバスの長所は、これらの諸要素を1枚の紙に表し概観できることです。つまり、事業計画書の要旨であり、新事業の仮説をまとめたものであるともいえます。

■重要視される「リーン・スタートアップ」
この「仮説」-「検証」プロセスの基盤になっているのが「リーン・スタートアップ(lean startup)の考え方です。リーン・スタートアップは、市場からのフィードバックにより、ビジネスモデル上の仮説を早く、廉価に検証していこうという考え方です。事業を大きく動かした後に大きな失敗をするのでなく、まず簡易なプロトタイプをつくり、それに対して顧客の声を聞きながら少しずつ修正をしていくことで成功確率をあげていくことを目指しています。ベンチャーキャピタルの投資案件の成功確率は1割とわれますが、これをリーン・スタートアップの考え方を利用することで3割に引き上げ、時間リスクと投資リスクを軽減することをねらっています。
 このようなリーン・スタートアップの考え方は、ベンチャー企業の立ち上げで脚光を浴びているが、決して新しいものではありません。社内ベンチャーや新規事業の推進の手法として、ワートンスクールのIan MacMillan教授やコロンビア大学のRita MacGrath教授が提唱してきたマイルストン計画や、筆者が長年主張している「実験経営学」もまさにこの考え方に近似しているものです。
不確実性の高い21世紀には、形式的なビジネスプランでは通用しません。新事業の実現を目的とするビジネスモデルの策定が非常に重要になってきているといえるでしょう。