「なぜ新規事業は成功しないのか」(大江建著)のメソッドを使って新規事業のコンサルティングをしています。

復興支援起業家教育を石巻専修大学で開講しています

2012年11月24日

復興支援起業家教育を石巻専修大学で開講

■被災地における起業家教育の実施
 昨年度に続き今年度も、9月末から石巻専修大学でCOBLAS(Consulting Based Learning for ASEAN SMEs:大江が開発し、ASEANで活用されている起業家教育手法。詳しくはこちら)を利用して起業家教育を実施しています。
 この復興支援起業家教育講座は、実践的起業家教育の手法を使って、被災地の中小企業と大学、学生の3者が復興のために力を合わせて、その推進のための契機となることをねらっています。具体的には、比較的被害の少ない地域の中小企業に、学生が新商品や新事業を提案するということを行っています。学生はただアイデアを出すのではありません。学生には、中小企業に実際に製品化を発注し、自分たちで販売することを課しています。
 
■授業内容
 実際の授業の展開は次のように行っています。
 石巻専修大学経営学部山崎准教授がご担当されているベンャー経営論を、この実践的起業家学習の場として割り当てています。
 講師は、私のほか、小松利昭氏(株式会社パワーブレイン 代表取締役)、河野良治氏(長野大学准教授)、石黒順子(当社コンサルタント)の4人が担当しています。さらにNPO法人アジアシードの石田靖氏、山崎理奈子氏の2人が事務局として、対外交渉などのバックアップを担当してくれています。
 私たち講師陣の役割は、ベンチャー企業論や新商品開発、マーケティングなどの大学の既存の授業の一部を実践的起業家教育講座向けに修正し、学生にコンサルティング手法を教え、それを実際の事業活動で応用する場を提供しています。
 実施にあたっては、ウェットスーツ専門メーカーであるモビーディック社、梱包材販売業の今野梱包社のご協力をいただいています。両社とも、地元で活躍される優良企業です。まず、これらの会社の方に外部講師を依頼し、自社の技術とそれを活かした既存商品を紹介してもらいます。それを参考に学生が新商品を企画し、各企業に製造を依頼するという流れになっています。
 販路としては、Yahoo石巻支社、東北支援のためのショッピングサイト“復興デパートメント”に店舗を構える「石巻元気商店」や、地元の道の駅「上品の郷」がご協力くださっています。
 また、課題の設定には、NPO法人にじいろクレヨン(石巻市、柴田滋紀理事長)にもご協力をいただきました。 
 今回、私たちは学生たちに次のような課題を与えました。すなわち、「NPO法人にじいろクレヨンでは、地域の被災した子供たちのために絵画教室の開催など意義ある活動をしている。この活動を継続させるために資金が必要である。そこで、今後の活動資金獲得のために販売活動を行うことを決め、そのための商材を探している。そこで、この授業を通じて、にじいろクレヨンのビジョンに合致し、且つ「モビーディック」「今野梱包」各社の持つ素材や技術を活用した製品を企画して欲しい。実際に商品化して、地域で試験的に販売して、売れ行きを実証して欲しい」というものです。それを図示すると、次のようになります(図 1)。

図1 授業の関係者と取引の流れ


  

 既に、学生たちは“業務の依頼元”であるにじいろクレヨンや各メーカーへのプレゼンテーションを終えており、12月中には各メーカーに発注した製品が学生の“会社”に納品される予定です。学生たちは、年末年始にかけて、協力先や自分達で開拓した販路で試験的に販売活動をします。最終的には、この販売の成果をまとめ1月中旬の最終授業で発表します。
 現在のところ、学生は次のような商品を企画しています。(1チーム、1商品)
 
【モビーディック社への発注商品】
・子供用ポシェット:「にじクレポシェット」
・子供用リュックサック:「桃太郎 Rainbow Bag」
 
【今野梱包社への発注商品】
・段ボール製の剣などの玩具:「なりきりにじいろライダーセット」
・段ボール製の音の鳴る玩具:「旧車會 カラコロ」
・万年カレンダー:「親子でカレンダー」
 
■被災地における起業家教育の意義
 このような起業家教育はどのような効果を参加学生や各協力機関に与えているのでしょうか。
 まず、昨年度に履修した学生からは、次のような声が寄せられました。
・     ビジネスの全体像をつかむことができた
・     ビジネス問題に対して自信を持って対処できるようになった
・     起業家精神を発揮する経験できた
・     就職活動への手助けになった
 
 一方、大学にとっては、地域の実践的起業家教育の拠点大学としてとして注目されているという意義があるものと考えます。こうした活動が、志望者の増加につながったり、大学の地域貢献として位置づけられたりされれば、私たちにとっても大変嬉しいことです。
 また、当事業は地域の企業の協力なしには成立しないものですが、発注額といっても残念ながら大きな取引金額とはならず、ご厚意に支えられているといった側面が大きいというのが正直なところです。しかし、昨年度もご協力くださったモビーディック社のご担当者からは、「学生があまりにも熱心で、それに応えるべくこちらもより一層真剣に対応するようになった」「学生から元気をもらった」「新しい商品開発の切り口を得た」という感想をいただきました。
 同社は、震災前から新規事業として、本業のウェットスーツの余り生地をバッグや小物入れとして活用とする事業を手がけていました。その事業が、今や事業の柱の一つとして成長し、今夏、新工場が稼働するまでになりました。この事業は、石巻の仮設住宅に住む被災者の方への雇用創出にもつながっています。私たちが望んでいた、起業家精神で復興を加速させることを体現しているといえます。このような企業が当授業に協力してくれることは、学生たちの起業家精神涵養の点でも大いに意義あることと考えます。
 大規模な天災の直後のボランティア活動は、救命に次いで現場の復旧やガレキ処理などの力仕事が中心です。しかし、それがひと段落した後は、知的ボランティアが必要になると思います。今回の活動はまさにその一環として実施しているものです。被災地の大学と学生の起業家精神の発揮が復興につながるとの信念のもと、起業家教育を通じて貢献していきたいと考えています。
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このような復興支援のための起業家教育や実践的人材育成プログラムにご興味のある方はこちらまでお問い合わせください。また発表会に興味のある人や、このような復興支援起業家教育や、実践的人材育成プログラムにご興味のある方は、こちらまでお問い合わせください。
(担当:石黒)